つれづれの記

大きくてウマい

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10月12日@府中トヨタスポーツセンター

練習後の竹内譲次選手(アルバルク東京)と対談しました。

(記事はこちら http://www.asahi.com/articles/ASJBL5S7NJBLUTQP01J.html )

 

2006年さいたまアリーナで世界選手権が開催された。

東海大学時代のその時から竹内譲次は日本代表の屋台骨を10年間支え続けている。

日本バスケ界に「動ける2m7cm」という稀代の逸材が、しかも2人も同時にだ、登場してから「竹内兄弟のいる間に」という言葉が日本のバスケ好きの間で数限りなく語られた。
得難い逸材のいる間に世界で勝負できるようにならなくてはということだ。

さいたまではノビツキー擁するドイツに善戦、ニュージーランドには勝利寸前まで行き、パナマからは勝利を挙げた。1勝4敗の成績ではあったが若手選手の台頭、代表強化の成果は確かに感じられ、将来に希望が見えた。ところが世界選手権後、強化体制は継続されず日本男子バスケは混迷の時期に入っていく。

世界はおろかアジアでの地位も失っていき、FIBAは二つに分裂したトップリーグと協会のガバナンス能力を問題視。2014年、国際試合出場資格のはく奪という制裁を受け、日本バスケは根底からの改革を迫られるという経緯をたどった。

 

Bリーグ元年、ついに日本のトップリーグは一つになり日本バスケはようやく上昇曲線へと転じる機会を得た。

 

あの世界選手権から10年。

竹内譲次は31歳になっていた。

 

 

サイズがあってそつなくなんでもこなせることが魅力だ。

 

9年大黒柱として働いたサンロッカーズからアルバルクへの移籍。

再び一からの出発。チームの中で自分のできることを見せる必要がある。

一方で、敵だった頃からアルバルクは優勝を義務付けられたタレント揃いのチームと見ていた。

質の高い選手たちの中で自分をどうこのチームに当てはめれば良いのか。

開幕してからもチームの中での役割を探るような時期が続いた。

コーチに話をしてみると、ただ一つの役割を担うロールプレイヤーとして取ったのではない、自分のできることを全部出してくれたらそれがチームにとって一番ためになるという答えが返ってきた。

迷いを振り切り自分らしさを出すことのできた第3節千葉ジェッツ戦からは手応えを感じている。

ようやくアルバルクの一員になれた気がしている。

 

 

じっくりと考えて言葉になるのを待って話す。

本質を掴もうとする感性の豊かさを感じさせる。

 

体の急成長に運動能力が追いついていなかった少年時代。

バスケを始めたばかりの頃は体の大きさだけでやれていたが、それだけが武器だったから余裕などない。使えるものは使わせてもらうという感覚だった。

 

中学生になり体の成長ペースが落ち着いてから技術の進化も始まった。

上手くなっていく過程の楽しさに夢中になる。

体の大きさを使わずに1対1をして勝つことが楽しかった。

そこは体の大きさ関係なく五分の勝負だから。

中学の先生がフックシュートとかフェイダウェイとか、当時だったら「かっこつけんな」と言われそうなシュートも打たせてくれたからありがたかった。ただゴール下で受けて振り向いてシュートだけやれ、みたいなことはなかった。洛南時代もそうだった。

 

大阪の中学時代、強豪校がベスト32とか16とかからシード校として登場する中、自分たちのチームは1回戦から勝ち上がっていく快進撃をやった。

初めての、自分たちの強さを知ることになったその時の喜び、上手くなっていく時のワクワク感を昨日のことのように語った。

誰もが認める日本バスケの大黒柱のひとりとなった今も、その感覚がバスケをしている一番大きな理由なのかもとふと思った。

自分ごとを記して恐縮だが、高校でバスケを始めて何もできないど素人から少しずつできることが増えていく時のワクワクする感じ、多幸感は、その後漫画を描く時のモチーフであり原動力だった。自分は体が大きいという経験も強豪チームでのプレイもましてやプロも代表もはるか彼方で経験はないが、譲次選手の語ったワクワク感と自分の味わったそのワクワク感は同じものだろうと感じた。だとすると、日本中、世界中、老若男女を問わず何百万人の人が同じものを心の中に宿し、共有しているのだ。これがスポーツの生命そのものなのだろう。

 

少年時代に体の大きさを使わずに五分の勝負を挑むのが好きだったように、もう一度まっさらな状態で自分に何ができるかを、チームに、世間に、そして自分自身に譲次は見せてやろうとしているところだ。

松井KJや田中大貴ら、いいシューターのいるチームで自分が真ん中をドリブルして走り

シューターにパスをさばく、そういうプレイもあっていいと思うと言う。

それがアルバルクというチームだと。

それは本当に見たい。

 

coast to coast*を3試合に1ぺん(は大げさだが)くらい見せて欲しいとお願いした。

 

この先にさらなる、誰も知らなかった竹内譲次が見られる予感がする。

それはそのまま日本バスケの可能性を引き上げる。

見ている方もワクワクする。

 

 

*coast to coast・・コートの端から端まで自分でボールを運んでフィニッシュまで行くプレイ。ビッグマンは普通はボール運びはしないものだから、これをやると意外性とあと迫力がすごい。たまにShaqがやって観客を沸かせた。

2016.10.30

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